ここではコミュニケーションをより広義に捉えて、事業の報告の仕方、すなわち成果の見せ方についての話をする。

地域おこし協力隊の取り組みについて、成果の見える化が必要だという話は「3年後を考えて行動してはいけない」でも触れさせていただいたが、この成果の見える化は地域おこし協力隊にとって非常に大きな意味を持つことから、ここで改めてさらに踏み込んだ内容をお示ししたい。

地域おこし協力隊が「成果の見える化」が苦手な2つの理由

成果の見える化とは、文字通り地域おこし協力隊が取り組んだ事の成果を誰の目にも見えるようにするということだ。

行ったことの成果を見えるようにするということは、事業を行う上で至極当然に行われることだが、地域おこし協力隊の場合はそれが苦手であることが多い。

その理由は2つ。

理由その①成果を気にしない行政体質

行政が行う事業について、そのKPI(成果指標)を示すように厳しく指摘されるようになったのは最近である。

行政は民間と違い、利益や数字を追い求めて事業を行っているわけではない。

それよりも正確性や公平性が念頭に置かれ事業が進められている。

したがって、行政組織には成果を意識している職員自体がそもそも少ないのだ。

単に行政批判をしているわけではない。組織の体質上、そうなってしまうのはやむを得ないことだ。

「3年間、とにかく辞めずに活動してくれれば良いよ」

行政職員からあまり成果を求められない地域おこし協力隊が多いのはそのことが大いに影響している。

しかし、こと地域おこし協力隊事業については、成果感覚をきちんと持って取り組むべきだ。

何故なら、3年という限られた時間の中で、地域の課題を解決すると共に、自身の次のステップのための下地を作る必要があるからである。

しっかりと自身のやってきたことの成果の見える化をしていかないと、これまでの事業を継続することも自身を次のステージに向かわせることもできなくなってしまうかもしれない。

行政体質に流されず、常に事業の目的と成果を意識し、それを第3者に伝えられるように心がけることが大切だ。

理由その②成果が計りにくい地域協力活動

地域おこし協力隊が行う取り組みには成果が計りにくいものが多い

これも地域おこし協力隊が成果の見える化を苦手としている要因の1つだ。

「売上が○○円上がった。」「○○個売れた。」「○○人が来てくれた。」など、成果を数字で計ることのできる取り組みであれば良い。

しかし、地域おこし協力隊の取り組みの中には、数字では真の価値を計ることができないものも多い。

草刈りやお祭りの手伝い等を通じたコミュニティ支援や、地域間の風通しを良くするための交流の場づくりなど、単に参加者数などだけではその価値を計る事は難しい。

しかし、この場合も成果の見える化は必要だ。

数字で示しにくい成果については、それ以外のもので示す必要がある。

量的な成果ではなく、質的な成果の見える化である。

例えば、地域おこし協力隊が地域コミュニティの絆向上を目的に、定期的な住民同士の意見交換会を運営したとする。

この意見交換会に参加してくれる地域の方は毎回7、8人であり、決してその数は多くない。

この事業の場合、参加者数だけではこの事業の真の成果が計れるとは言えない。

参加者の数以外の指標について考えることが必要だ

参加者の満足度や感想などもその指標に値する。

参加者が「みんなと話せるのが楽しい」「次回が楽しみ」といった感想を抱いていた場合、この事業は地域コミュニティの絆や住民生活の幸福度の向上にきちんと機能しているといえる。

また、この事業を行う前後での地域住民の動向を確認することも大切だ。

意見交換会を行う前後で住民同士のコミュニケーションはどのように変化したか。

住民同士の協力体制に変化はあるか。

地区や団体の垣根を越えた連携体制は生まれたか。

数字では計りにくい質的変化をきちんと捉え言語化してまとめる

これが地域協力活動の真の成果を計るために重要なことである。

成果の見える化の意味

成果の見える化をすることは地域おこし協力隊のためのみならず、地域のために必要不可欠な行為だ

地域課題解決のために行われる様々な取り組みが、その本来の価値をきちんと判断されないままでは、それを継続して取り組むことは難しくなる。

経済効果が無くても、恩恵を受ける住民の絶対数が少なくても、それが地域にとって大切な事業と位置づけられれば、公金を使って事業を継続することは可能だ

成果の見える化は事業の正当な価値を計れるようにする。

それは成果の見える化が地域おこし協力隊のためだけでなく、地域に必要な事業をきちんと継続・発展させるために必要なプロセスだということを意味している。

 

目的を意識したコミュニケーションが成果の見える化を実現させる

成果の見える化を実行するためには、日頃から自身の活動の目的をきちんと意識しておくことが大切だ

解決したい地域課題は何か?

そのために自身の活動はどんな役割を担っているのか?

など、しっかりと見据えたうえで取り組む必要がある。

年度末や予算要求時にその場しのぎで数字や評価をまとめるのではない。

予め取り組みの意義目的及び成果指標をきちんと整理し、それに対して結果がどうであったのかを積み上げていく

結果的にその積み上げが成果の見える化につながるのだ。

それを可能にするのが、日頃からの目的意識を持ったコミュニケーションである。

地域おこし協力隊は自分1人では地域の中で活動を行うことはできない。

常に行政や地域住民とのコミュニケーションを取りながら物事を進めていく。

そのなかで常に「解決すべき課題は何か?」を共有し、そのために自分たちのできることに挑戦する。

目的意識をもったコミュニケーションができていれば、自分たちの取り組みに対する成果指標もきちんと整理することができ、日々の活動の積み重ねを成果の積み重ねにすることができるのだ。

また、解決すべき課題に対する取り組みであることが明確かつ3者で共有されているので、そこでの成果は地域に必要な成果と直結する

取り組みに対する正当な評価を得られ、それを継続して行うことの必要性も認識してもらいやすくなるのだ。

最も避けるべきは、目的意識の持ったコミュニケーションが欠落していたがために「やってはみたものの、課題解決に貢献できたのか分からない。

行政や地域住民からも反応が薄い」という状態になってしまうことだ。

これは事前に行政・地域住民との目的や意義を共有できていなかったことが大きく影響している。

日頃から地域おこし協力隊は行政・地域住民としっかりと目的意識をもったコミュニケーションを取りながら、活動を通じてどんな課題を解決したいのか?

それはどんな成果指標で計ることができるか?

ということを常に意識・共有しておくことが大切である。