「少数の成功と多数の失敗」という現状

現在地域おこし協力隊は全国で3,000人以上が活動しており、今後はその数も更に増えていくことだろう。

それに伴って、全国でも目覚ましい成果を挙げている地域おこし協力隊も数多く見られるようになり、TVやネットなど、様々なメディアに取り上げられるようになって来ている。

そうしたメディアの影響もあって、これまで導入を検討していなかった自治体も導入を検討するようになり、地域おこし協力隊を志す方も増えてきている。

こうした地域おこし協力隊という制度がどんどんと広がりを見せることは喜ばしいことだが、地域おこし協力隊の華やかな部分だけを捉えて、地域おこし協力隊の実情をあまり知らないままこうした流れが大きくなってしまうことには、大きな不安を感じる。

というのも、いわゆる「成功」と言われている地域おこし協力隊の数は確かに増えてきているが、それ以上に「失敗」と言われる地域おこし協力隊も間違いなく増えている。

こうした現状を知らぬまま地域おこし協力隊拡大の流れが広まってしまうと、更に「少数の成功と多数の失敗」を生む構図が広がることになる。

その前に、「どうして『失敗』と言われる地域おこし協力隊が出てしまうのか?」ということについて、しっかりと向き合い、「多くの成功」を生む制度としてブラッシュアップしていくことが必要である。

導入目的導入の明確化で分かれる「成功」と「失敗」

では、何故「失敗」と言われる事例が出てしまうのかについて考えてみたいと思う。

失敗の原因の多くは、地域おこし協力隊の導入目的が不明確なまま導入しているからだ。

筆者は香川県の地域おこし協力隊として、香川県内外の地域おこし協力隊の事例を30事例以上見て来たが、地域に着任した地域おこし協力隊が、「成功」と言われるか「失敗」と言われるかは、例外無く「どれだけ事前に地域おこし協力隊導入の目的を明確化出来ているか」に影響されていた。

導入の目的を明確に出来ている地域に着任した地域おこし協力隊は「成功」し、それが不明確なまま着任した地域おこし協力隊は「失敗」しているのである。

地域課題解決のための地域おこし協力隊という本質

地域おこし協力隊の成功とは何か?また、失敗とは何か?

地域おこし協力隊の成功とは、「地域が描いたビジョンを実現するための課題を解決することができた状態(または解決に向けた土壌づくりができた状態)」である。

逆に言うと、地域おこし協力隊の失敗とは「地域が描いたビジョン実現のための課題解決に機能しない状態」である。

地域おこし協力隊の成功の話をする際、必ずといっていいほど、地域おこし協力隊の成功は「地域おこし協力隊がその地域に定住すること」という考え方があるが、地域おこし協力隊の本質を考えると、これは必ずしも正しいとは言えない。

もちろん、地域おこし協力隊が地域に定住する事自体は素晴らしいことであり、協力隊の定住=成功と捉えられてしまいがちなのは仕方がないことだが、本質とは少し異なる。

地域おこし協力隊は、あくまで地域の課題解決の1つのツールに過ぎない。

つまり、地域が理想の状態になるために解決する必要があるとした課題に対して、その解決手段として地域おこし協力隊が適当と判断した場合に、地域おこし協力隊を活用して地域課題解決を図っていくというのが正しいプロセスである。

地域課題に対して、地域おこし協力隊以外の手段の方が適当と判断された場合は、当然、地域おこし協力隊以外の手段を採用し、地域課題解決を図る。

あくまで地域おこし協力隊は地域課題解決の手段の1つである。

つまり、地域課題解決のためのツールの1つである地域おこし協力隊は、その地域課題解決に機能したかどうかで成否が判断されるべきである。

例えば、ある地域が「買物難民を減らしたい」という課題を設定し、その課題解決方法として地域おこし協力隊を導入したとする。

この時、地域おこし協力隊の成否を判断する基準というのは「買物難民を減らせたのか?」ということである。

移動販売や送迎サービスなどの仕組みを導入し、買物に困窮する方を減らす事が最大の目的であり、地域おこし協力隊の定住がそれではない。

もちろん、地域おこし協力隊がその地域に定住することは、恐らくその地域にとって喜ばしいことだが、それは結果論である。

さらにいうと、この地域の地域おこし協力隊の場合、仮に自身が地域から離れることになったとしても、残された地域住民だけで継続できるような仕組み作りも評価基準の1つとなるだろう。

一方、地域課題が「地域の担い手不足」であり、その解決手段として「地域おこし協力隊に地域へ定住してもらう」という判断をした場合には、その地域にとって、地域おこし協力隊の成功とは、地域に定住できたかできないかで判断されうるのである。

「なんのための地域おこし協力隊?」は大前提

そうした大前提をしっかりと理解できていると、「地域おこし協力隊の導入目的が不明確なまま導入してしまった」という現象は起き得ないことに気付くだろう。

何故なら、解決すべき地域課題があって、それを解決するための手段として地域おこし協力隊が適当であると判断されて初めて、地域おこし協力隊を活用するという行動につながるからである。

つまり、事前の段階で、「何のための地域おこし協力隊なのか?」という議論は必然的に起きているはずなのだ。

地域おこし協力隊にはどんな地域協力活動をしてもらうのか?それを通じてどんな未来を地域にもたらしたいのか?ということは地域おこし協力隊を導入する前に明らかになっているべきなのである。

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