地域おこし協力隊が地域に赴任してきた際、まず行政担当者が彼らに説明する必要がある重要事項が3つある。

①ビジョンとミッションの関連性

②行政予算の性質とプロセス

③コミュニケーション体制

である。

「地域は何を目指しているのか?」をしっかりと共有

募集要項や採用面接の際など、「地域でどんなことをするのか?」というミッションについてはある程度地域おこし協力隊に共有されるが、実際に赴任した際は改めて説明の機会を設けるべきである。

その際、ミッションを設定した理由やプロセス、ミッション設定に関わった人間等、出来るだけ詳しく共有しておきたい。

そして、最も重要な点は、その課題がその地域のビジョンとどのように関わりを持っているかをしっかりと説明することだ

「地域がどんな未来を描いているのか?」

「自分の活動はそのためのどの部分を担っているのか?」

ということを導入段階でしっかりと理解していいただくためである。

ビジョンとミッションの関連性をきちんと理解できると、ビジョンをぶらさずにミッションを柔軟に変化させるということも可能になる。

明確なゴールを共有することで、それに対するアプローチは共に考えながら進めていく体制が作れるのだ。

総合計画と地域おこし協力隊

「地域がどんな未来を描いているか?」ということを理解するうえで、地域の総合計画をキチンと理解していただく作業も重要だ。

多くの自治体では、地域おこし協力隊に地域おこし協力隊事業自体が地域の政策とどのように関連があるのかをほとんど説明をしていない。

その地域の総合計画を読んだ事すらない地域おこし協力隊も大勢いる。これは非常に問題視されるべきである。

地域のビジョン達成のために、外部人材を用いて解決すべきものについて地域おこし協力隊のミッション化をして、彼らに取り組んでもらう。

これは各市町村で策定される総合計画にそった施策の組み立てと全く同じの流れであり、地域おこし協力隊のミッションも他の施策同様、地域の共通ビジョンである総合計画に沿って遂行されるべきだ。

そうした大前提のうえに成り立っている地域おこし協力隊のミッションであるから、総合計画との関連性をしっかり理解するのは、至極当然のことである。

しかし、残念ながら、その大局を理解している地域おこし協力隊は少数で、ほとんどの地域おこし協力隊は、自分のミッションが、「総合計画」のどの部分を担っているのかすら理解していない。

もちろん、地域おこし協力隊自らが、自身の活動の地域のビジョンにおける位置づけを知ろうとする姿勢は大切なのだが、先ずは雇い主である行政担当者がきちんと説明すべきである。

一般の方にとって、行政予算は謎だらけ

行政担当者は行政予算の計上方法や執行方法などについて、世間一般の方はほとんど知らないと理解した方が良い。

当然、地域おこし協力隊についても同様である。

行政担当者は普段の業務で当たり前のように扱っているため、ついつい詳しい説明を省きがちだが、行政予算は地域おこし協力隊にとって、最も分かりづらく、且つ、上手くつき合う事ができないと活動が前に進まない、最も重要な項目である。

どうして行政予算は地域おこし協力隊を含めた一般の方にとって分かりにくいものなのか?

その答えは行政予算が持つ2つの特徴に起因する。

その特徴とは

①予算プロセスの厳格性

②使用用途の公平性である。

行政予算について説明する際は、特にこの2つの特徴を理解していただけるように説明が必要だ。

スケジュール感をしっかりと説明すべき「予算プロセス」

行政予算は、国民からの税金で成り立つ公金であるから、非常に長い時間をかけて厳格に決定されていく。

具体的に、次年度の予算は、前年10月中旬頃から、それぞれの担当課でベースとなる予算を組み立て、それをもとに12月〜2月に予算調整課による査定をし、最終的に3月議会の承認を得ることで成立する

つまり、地域おこし協力隊が自身のやりたいことを予算化し実行するには、前年度の11月から予算見積を作成し、担当課の承認を得る必要がある。

そして、それが採用されて行動に移せるようになるのは、予算が確定し、動き始める翌年4月以降である。

10月時に構想を始めてから、約半年後にようやく予算を使った事業を実行することができるのだ。

地域おこし協力隊は、先ずこのスケジュール感に面食らう事が多い。

やりたい事が見つかり、それに予算をつけようと思うと、早くても次の4月まで待たなくてはいけない。

「そんなスピード感では地域おこしなんてできない」と肩を落とす地域おこし協力隊も多い。

しかし、この予算のスケジュールそのものを変更していくことはできないので、地域おこし協力隊はこの予算制度と上手につき合いながら活動していく必要がある。

行政担当者は、この予算制度について事前にきちんと説明し、スケジュールを逆算しながら必要な予算がしっかりと計上できるようにサポートしていくことが大切である。

大前提をしっかり説明することがお互いの信頼関係に「公金の性質」

地域おこし協力隊の活動費もまた、ほかの行政予算と同様に公金である。

その使用用途は公金の性質の範疇内に留まるということはすでに説明させていただいたが、ここで改めて、そうした活動費の性質をしっかりと地域おこし協力隊に説明することの重要性について言及したいと思う。

改めて公金の性質を簡単にまとめると、公金は国民からの税金から成り立っており、その使用用途は公共の利益に資するものでなければならない。

社会の維持に必要なコト・モノ・サービスであるのに関わらず、民間では補いきれない部分について、行政機関が公金を利用してそれを補う。

故に、国民から強制的に税金を徴収できる。

そうした公金の使用用途の中には、地域の活力創出・促進を目的としたものがある。

移住促進施策や交流人口増加に向けた観光政策、特産品開発支援などがそれにあたり、地域おこし協力隊の活動予算については、この分野の支出として整理されることが多い。

つまり、地域おこし協力隊の活動も、一部の人にとっての利益になるものでなく、地域全体の利益につながることが大前提だ。

こうした大前提を常日頃から意識している行政担当者とは違い、地域おこし協力隊はこうした公金の性質をすぐに理解するのはなかなか難しい。

この状態のまま、地域おこし協力隊が課題解決に向けたプロジェクトを立案したとしても、利益が偏っていたり、公平性にかける内容であるために、行政担当者から却下されることが少なくない。

この時、地域おこし協力隊自身がどうして却下されたのかをきちんと理解できないというケースも多く、「行政から頭ごなしに却下された」と感じてしまうこともある。

こうした勘違いが行政担当者への不信感につながり、両者の関係性が悪くなってしまうということも実際に起きている。

こうした事態を避けるためにも、地域おこし協力隊には公金の性質や考え方、大前提を理解してもらう必要がある。

それが地域課題に対する適切なプロジェクトの立ち上げだけでなく、お互いの良好な信頼関係づくりにもつながるのだ。

地域でのプロジェクトを考える際、最初から地域全体の利益につながるような施策を実行していくことは難しく、スタート時点では一部のみの利益に留まってしまうことがある。

しかし、地域全体の利益につながることが公金使用用途の大前提ということが念頭にあれば、計画的にその利益を拡げていくことや、補完的なプロジェクトを組んで公正性を保つといった構想を描くことも可能になる。

こうした構想も公金扱うプロフェッショナルである行政担当者のサポートがあって初めて可能になることだろう。

しっかりと事前に公金の性質について説明し、そのうえでビジョン・ミッションに沿った素晴らしいプロジェクトを地域おこし協力隊と共につくりあげていく。

こうした体制づくりが必要だ。

ほうれんそうのルールづくりが大切「コミュニケーション体制」

就任直後に説明すべき3つ目の項目はコミュニケーション体制である。

地域おこし協力隊の事業が地域にどれだけの貢献できるかは、地域おこし協力隊と行政担当者とのコミュニケーションがどれだけ良好に行われているかにかかっていると言っても過言ではない。

それほど重要な項目がコミュニケーション体制である。

このコミュニケーションについては、別項目で改めて細かくまとめたいと思うが、ここでは地域おこし協力隊が就任した直後にしっかりとコミュニケーション体制を説明することの重要性について述べたいと思う。

ポイントはコミュニケーションのルールを決めるということである。

日頃のコミュニケーションの約束事について行政担当者と地域おこし協力隊の間で最初に決めておきたい。

この時、コミュニケーションの意味を少し広義に捉え、日頃の報告連絡業務等もコミュニケーションに含めて考えていただきたい。

先ず決めておくべきことは、どのように日頃の活動に対する報告連絡業務を行うかという点である。

通常の報告は日報で行うのか?それとも口頭で行うのか?誰まで共有するのか?いつ共有するのか?考えるべきことは様々である。

後述するコミュニケーションの章で詳しくまとめるが、こうしたコミュニケーションのルールを予め共有しておいて、日頃感じたことや悩みなどをしっかりと共有できる仕組みを作っておく必要がある。

このルールづくりを怠ってしまうと、地域おこし協力隊も行政担当者も、気がついた時に報告連絡をするだけになってしまう。

これは最も避けたいコミュニケーション体制である。

次第にお互いに無関心になり、ほとんどコミュニケーションを取らない状態になってしまう。

こうなると、お互いの信頼関係にヒビが入り、地域協力活動どころではなくなる。しっかりと事前にルールを決めて、お互いに向き合う時間や方法を予め設けるようにしておきたい。

以上3つのポイントが地域おこし協力隊を導入した直後にしっかりと伝えておくべき重要項目である。

どれも当たり前のような項目だが、実は抜け落ちていたり、分かっているものだと思い込んで説明を省略してしまっていることが多い。

仮に、この3つの項目について、お互いの認識に相違がなかったとしても、改めてこれらの項目については説明する機会を作って欲しい。

外から新しい人材が地域に入り込んで新しいことをスタートさせる際、最初の共通認識や決まり事をしっかりと確認していくことは非常に大切である。地域を元気にしたい。

地域で元気に暮らしたい。同じ想いを持つもの同士、しっかりと歩みを共にできるよう、最初の一歩目はしっかりと歩調を合わせたい。