もくじ
信頼関係作りは受け入れ準備から
地域おこし協力隊が活き活きと活動し、地域に貢献していくうえで絶対的に必要になるのは、地域おこし協力隊と行政担当者との信頼関係である。
地域おこし協力隊は活動するにあたり、予算や活動計画等、行政担当者と共につくりあげていく。
活動中もお互いに報告・連絡・相談をしながら進捗を把握したり、地域に貢献するためにお互いの役割を全うするのが理想の協力関係と言える。
地域おこし協力隊と行政担当者はお互いの信頼関係のもと、いわば2人3脚のような状態で一歩一歩、歩みを進めていくのだ。
お互いの信頼関係を築き上げていくうえで非常に大切になってくるのは、第一印象である。
ここでいう第一印象とは、日頃我々が使う第一印象という言葉の意味とは少し異なるかもしれない。
日頃、我々は第一印象という言葉を、出会って初めて受けたお互い印象というような使い方をするが、ここでいう第一印象はもう少し長い時間、地域おこし協力隊が導入されてから凡そ1ヶ月間の間に受けるお互いの印象という意味で用いたいと思う。
地域おこし協力隊が導入されてからの一ヶ月というのは、お互いの信頼関係を築くためのとても重要な第一ステップ期間と言える。
特に行政担当者においては、それまでの受入準備をどれだけ入念に行えてきたかが如実に現れる期間であるため、どうか事前の準備を抜かり無く行って、万全の体制で地域おこし協力隊を迎えていただければと思う。
第一印象を良好にするための根回し
受入に係る準備は、導入目的の明確化や雇用関係の整理、住居の確保など、様々なものがあるが、お互いの信頼関係に大きく関わる第一印象を良好なものにするために非常に大切なのが、関係各者へ根回しである。
根回しというと、少し悪巧み的な印象を持つが、地域で仕事していくうえでは欠く事のできないとても重要なプロセスである。
地域には様々なステークホルダーがあり、そうした多様な関係者を巻き込みながら、地域のプロジェクトは進んでいく。
その際、誰をどのタイミングで巻き込むか、どうやって巻き込むか、誰からお願いしてもらうか、などの根回しが非常に大きな意味を持つようになる。“根回し上手は仕事上手”と言われる所以である。
事前に共有「課題とビジョン(導入目的)」「ミッション」「役割分担」
地域おこし協力隊受入において必要な根回しは、受入先の地域・施設の関係者に対して、事前に3つのことを共通認識として定着させることである。
①「何故、地域おこし協力隊を導入するのか?(課題とビジョン:導入目的)」
②「地域おこし協力隊は何をするのか?(ミッション)」
③「地域おこし協力隊との役割分担」についてである。
どの項目も当然といえば当然の項目だが、実は事前に共通認識を作れているケースは多くない。
地域や受け入れ施設関係者向けに、簡単な事前説明があるものの、お互いの共通認識として理解度を高められているかどうかに疑問が残るケースが多い。
本来であれば、地域おこし協力隊を導入する際、地域の課題やビジョン、協力隊のミッションなど、受入先の地域住民全員で協議して決めていくことが望ましいのだが、現実にそれは難しいので行政・地域の一部(代表者・担当者)がそれらを決定してしていく。
大切なのは、そうしたプロセス及びその成果を、他の方としっかりと共有を図ることである。
この時、特に重要なのは①「何故、地域おこし協力隊を導入するのか?(課題とビジョン:導入目的)」の共有である。②、③については、実際に活動や作業が目に見えることから、比較的共有はしやすいのだが、①については目に見えない概念的なものであるため、共通認識として理解度を押し上げるまでが非常に手がかかる。
しかし、地域おこし協力隊事業の根幹である①の共有が図れていないと、地域おこし協力隊が活動を進めていく中でトラブルが起きやすいばかりか、地域おこし協力隊事業そのものが機能しなくなってしまう可能性すらある。
「なぜ?」の事前共有が隊員との信頼関係づくりの一歩目
①「何故、地域おこし協力隊を導入するのか?(課題とビジョン:導入目的)」を、各関係者と事前に共有しておくことは、地域おこし協力隊との信頼関係づくりに非常に大きな影響を与える。
就任当初、地域おこし協力隊は右も左も分からない地域に期待と不安の両方を抱いて着任する。
この際、自身の周囲の人間が地域おこし協力隊の導入目的をしっかりと認識しているかしていないかで、地域おこし協力隊と地域、行政との信頼関係が大きく左右されることは想像に難くないだろう。
就任当初の地域おこし協力隊が、周囲の関係者から「あなたは何しに来たの?」という声をかけられ、その地域に対して不信感を抱いてしまうケースが少なくない。
香川県内でも、そうした声を受け、地域の方の意識のバラつきに不信感を募らせてしまい、着任1年で地元に帰ってしまった例もある。
事前に共通認識をしっかりと確立させ、着任当初の地域おこし協力隊に対して「地域のために一緒に頑張ろう」と周囲の関係者が声をかけられるような環境づくりが、地域おこし協力隊と地域、行政との良好な信頼関係づくりにつながり、地域おこし協力隊事業がしっかりと機能することの一歩目となるのだ。
キーパーソンからつながる理想的な人間関係づくり
根回しと同様に、地域おこし協力隊と行政担当者との第一印象を良好なものにするために大切なものはキーパーソンの紹介である。
ここでいうキーパーソンとは、地域協力活動において、自らも積極的に活動しており、地域おこし協力隊とも協力関係になりうる人材のことをいう。
地域に移り住んで来たばかりの地域おこし協力隊は、当然ながらその地域での人脈はほとんど0と言ってもよい。
こうした中、自治体によっては「まずは地域への挨拶から初めてください」と、地域おこし協力隊に人脈づくりを丸投げするケースがあるが、これはかなり非効率であるし、地域おこし協力隊との良好な信頼関係を作るのは難しい。もちろん人脈を自ら拡げていく行動力は地域おこし協力隊にとって、重要なスキルの1つではあるが、誰しもが0から豊かな人脈を作れるようなメンタリティの持ち主というわけではない。
また地域においては、先ほどの根回しと同様の考え方で、誰から先に挨拶するかという事が重要な意味を持つ場合が多々ある。
こうした意味において、地域の重要な人材についてはしっかりと機会を作って紹介し、その人材をハブに、さらに地域おこし協力隊自らが人脈を拡げながら、地域協力活動を充実させていけるように整えるのは、とても大切である。
協働人材とメンター人材
キーパーソンは誰でも良いという訳ではない。
地域には各分野で精力的に活動している方がいるが、中でも最初の1ヶ月で地域おこし協力隊と接点を持たせるべき人材は2パターンある。
①地域おこし協力隊のミッションとの相性が良く、恊働でプロジェクトを行えそうな人材
②地域のヒト・モノ・コトを理解していて、メンターとして相談に乗ってもらえる人材
地域おこし協力隊のミッションと相性が良い人材というのは、文字通り、地域おこし協力隊のミッションと同じ分野または似た領域で積極的に活動している人材である。
こうした人材については、地域おこし協力隊のミッションを考える段階から巻き込んで、その分野においてどんな課題があって、どんな未来を描くのかということを共に考えていくことが望ましいが、それが叶わなかった場合でも、前述した“根回し”は確実に実施しておくべきである。
それを踏まえたうえで、実際に地域おこし協力隊が赴任したらすぐに顔合わせをして、今後お互いにどのような協力ができるかを考えていけるようにしていきたい。
相談役(メンター)の重要性
地域のヒト・モノ・コトを理解していて、メンターとして相談に乗ってもらえる人材というは、地域の良き理解者と言い換えても良い。
この人材についても、ミッション設定の段階から巻き込んでおくべき人材の1人である。
メンターには地域の事を良く理解していて、ある程度発言権も持っている、それでいて柔軟な発想ができる人材であることが望ましい。
そうした人材についても、まず顔合わせをして、地域おこし協力隊についての良き理解者になっていただけるように努力したい。
直接ミッションと関わりがあるかどうかではなく、地域での顔が広いことや面倒見が良いことなどがメンターとして重要な素質と言える。
地域おこし協力隊が地域に馴染んでいく際、地域での暮らし面や精神面でバックアップが非常に重要になる。この際、メンターがいると、人脈を紹介してくれたり、歓迎会をしてくれたりと、地域との橋渡し役を自然と担ってくれるのである。
また、地域おこし協力隊がミッションを進めていく上で、行き詰まった時など、相談できる相手がいるという事はとても心強い。
香川県の地域おこし協力隊向けに行っているアンケート中の「地域おこし協力隊の課題」という項目に対して、常に上位にランクインするのが「相談に乗ってもらえる相手がいない」というものである。
地域おこし協力隊は、地域課題解決に向けて、常に自分の頭で考えながら行動をしていくのだが、やはり自分以外の意見やアイディアを取り入れながら進めていきたいと感じており、それに足る人物が周囲にいないと感じているのだ。
そのため、地域おこし協力隊は孤独を感じやすく、ミッションアイディアも小さくまとまってしまうケースが多い。
そうした課題を解決するためにも、地域おこし協力隊のそばにメンターになりうる人材を設置することは大切である。
紹介のし過ぎも危険
キーパーソン紹介での注意点は、紹介しすぎないことである。
ミッションに関係が深い人材については、積極的に接点を持たせて、幅広く人脈を拡げてもらうことが望ましいのだが、キーパーソンという言葉の意味を広義に捉えすぎて、地域協力活動を積極的にやっている人なら誰でも紹介するというスタンスは避けた方がよい。
その弊害として、「①ミッションを見失うリスクが高まる」「②自分で人脈を拡げる力を養う機会を奪う」が挙げられる。
地域には様々な課題が存在し、それに対して様々な方が思い思いの活動を行っている。
地域おこし協力隊のミッションについては、その様々ある課題の中から、適性や優先順位を考慮して、ある程度取捨選択して決定がなされている。
その中で、手当たり次第に人を紹介し、その方々からそれぞれの課題をお話いただくと、就任当初の地域おこし協力隊にとって混乱のもとになってしまう。
接点を持つこと自体が悪ということではなく、むしろ、地域協力活動を積極的に行っている人とはなんらかの接点は持つべきなのだが、そのタイミングが重要である。
地域おこし協力隊の本来のミッションがある程度軌道に乗り、少し視野を拡げたいと感じている時などに紹介の機会を作ったほうが、ミッションがブレるリスクが少ない。
もう一つの注意点は、地域おこし協力隊自身も、自らの力で地域内で人脈を拡げていく力は必須であることを忘れてはならないということである。
地域おこし協力隊がご近所さんとの何気ない会話や出会いから、ミッション解決の糸口を見出すケースは非常に多い。
こうした人脈の拡げ方は、決して行政側で意図していたものではなく、地域おこし協力隊自身が自らの嗅覚で手繰り寄せてきたものであって、現場に入っている地域おこし協力隊の強みの1つでもある。
その意味において、”人脈は行政から紹介してもらうもの”という誤解を抱いてしまうのは、非常にもったいない。
地域おこし協力隊は受け身の姿勢であってはいけない。常に自分の頭で考え、行動に移していく必要がある。
その最たるものが、人脈づくりかもしれない。
自分の頭で考え、足を使って誰かに会って、地域課題の解決の糸口を探る。
その行動を繰り返しながら、少しずつミッションを前に前にと進めていく。
過保護ともとれる人脈紹介は、地域おこし協力隊を受け身にし、積極性を養う機会を損なう恐れがあるので、手厚く紹介する部分と自らに開拓させる部分のバランスを慎重に見極める必要がある。
挨拶回りは行政担当者も同行すべし!
就任直後の1ヶ月、地域おこし協力隊と行政担当者はなるべく多くの時間を共に過ごすことが、最初の信頼関係づくりにおいて大切である。
来て早々の地域おこし協力隊は応援者も少ないため不安を感じやすく、孤立しやすい。
そんな中、地域おこし協力隊だけで活動をスタートさせようとすると、どうしても個人で行動する時間が増え、更に孤独や不安を感じてしまう恐れがある。
そうしたリスクを回避するためにも、最初の1ヶ月は行政担当者はできるだけ地域おこし協力隊と行動を共にしながら、キーパーソン紹介や仲間づくりに取り組んでいきたい。
地域おこし協力隊だけの場合と、行政担当者が横にいる場合とでは、地域側の受け方にどうしても差が出る。
やはり行政担当者が横にいる場合の方が信頼感が格段に上がるのだ。
それに加えて、地域の方に地域おこし協力隊を導入するに至った経緯等をきちんと行政担当者の口から説明をすることで、地域の方も地域おこし協力隊及び行政の本気度を汲み取り、その後の対応にも良い影響がでてくる。
また、地域おこし協力隊も就任早々で、不安いっぱいの時に、隣にしっかりと行政担当者の方が居てくれることが大きな心の支えとなる。
さらに行政担当者の方が地域の方に説明する「なぜ地域おこし協力隊を導入したのか?」を繰り返し聞く事で、自分が地域おこし協力隊として、その地域にいる意味ややるべきことが鮮明にイメージできるようになってくる。
挨拶の同行には、地域おこし協力隊自身の不安を払拭し、モチベーションを上げるという効用も含まれている。
事前の根回しやキーパーソンの紹介を通じて、先ずはお互いの信頼関係を構築するのが、地域おこし協力隊事業を成功させるための一歩目である。この段階でしっかりと強固な信頼関係を築けていると、多少の課題でもしっかりと乗り越えていける太くで長い地域おこし活動をすることができるようになっていく。
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