地域おこし協力隊を導入する目的を明確にするためには、次のプロセスが必要である。
1:地域課題の洗い出し
2:課題の仕分け
3:課題(目的)の選定
4:ビジョン設定
5:ミッション設定
6:地域・行政・協力隊で共有
地域の課題解決のために地域おこし協力隊をしっかりと機能させるためには、こうしたプロセスを地域と行政とが一緒になって丁寧に辿っていく必要がある。
どちらか一者だけで行ってしまってもダメだし、適当に上辺をなぞるような進め方でもダメだ。
両者が丁寧に歩みを進めること。
これが必須条件である。
1:課題の洗い出し
まずは自分たちの地域で課題になっていることを洗い出す必要がある。
地域住民と行政職員とが一同に会す場所で地域の課題を出し合う機会を設けるのが効果的だ。
それぞれの立場から見えている課題や感じている不満も異なるため、バライティに富んだ課題が抽出できるだろう。
この段階では、課題の大きさや深刻度は度外視して、とにかく出し合うことを意識して行うと良い。
アイディア出しで用いられるブレインストーミングさながらに行うことで、様々な地域課題に目を向けるきっかけにもなる。
2:課題の仕分け
洗い出しで抽出できた課題は2つの基準によって仕分けされる。
「優先順位」と「自分たちで解決できるかできないか」の2つだ。
すぐにでも手をつけないと地域が立ち行かなくなるような課題は優先順位を高く、当面の間は手をつけなくても地域の存続に係るような問題は発生しない課題は優先順位を低く分類する。
「自分たちで解決できるかできないか」という基準で仕分けすることも必須だ。
地域課題解決の理想の姿は、地域住民が自分たちの手によって、課題を解決していくことであり、なんでも外部人材だよりになってしまうのは、地域自治の機能を失わせることにつながる。
自分たちが洗い出した課題が、自分たちでやるべきことなのか、外から来る地域おこし協力隊にしかできないことなのか。
慎重に見極めるて仕分けする必要がある。
すぐに手をつける必要がある“優先順位が高い課題”であり、且つ、“自分たちでは解決できない(または外部人材のほうが適当と考えられる)課題”こそが、地域おこし協力隊に取り組んでもらうべき課題だ。
3:課題(目的)の選定
課題の洗い出し・仕分けが完了したら、地域おこし協力隊にどの課題に着手していただくかを選定する。
この時、関連する課題であれば複数の課題を選定することもできるが、その数が多過ぎたり、内容が多岐に渡る場合は地域おこし協力隊の力が分散してしまい、課題解決に向けて機能しにくくなってしまうので注意が必要だ。
地域おこし協力隊の得意分野を知ったうえで課題を選定することも大切である。
地域おこし協力隊の得意なことは「若者目線」「よそ者目線」「鳥の目線」の3つ。
若者目線:20〜30代が多い地域おこし協力隊は、柔軟な発想やSNSやICTを駆使した取り組みを行うことができる。
よそ者目線:地域の前例にとらわれずに、新鮮な目で地域を捉えることができる。
鳥の目線:地域おこし協力隊同士のネットワークや県外のネットワークを活かした幅広い視野から地域活動について発想することができる。
こうした3つの得意な“目線”を最大限活かすことのできる課題を選定することで、課題解決に向けたより大きな効果が期待できる。
4:ビジョンの設定
地域おこし協力隊に取り組んでもらいたい課題が決定したら、その課題が解決された時のビジョンを思い描いておく必要がある。
ここでいうビジョンとは、課題が解決された際、地域がたどり着くであろう理想の状態である。
例えば、空き家問題を地域おこし協力隊と共に取り組む課題に設定した場合、その空き家問題が解決された時に、地域がどんな状態になっているかを想像する。
この時、注意すべき点は、ビジョンは単なる“課題に対する目標”ではなく、“課題解決を通じた地域の理想像”であるということだ。
「地域の空き家率を○○%まで引き下げる!」ではなく、「空き家を貸したい人と借りたい人が自然につながれる仕組みが整い、新しい人が入って来やすい状態になり、新しい人と地域住民とがお互いに尊重し合いながら、お互いが幸せな暮らしを実現できる地域になる!」といったものがビジョンだ。
地域課題解決に関わる方のポジティブ思考を総動員させてつくりあげていくといって良いほど、地域課題を解決した先に待っている地域の理想像を言語化したものだ。
地域の価値観と言い換えても良いかもしれない。
このビジョンや価値観は設定すること自体というよりも、それを共有することに大きな意味がある。
これは会社組織で従業員一同が会社のビジョンを共有してそれぞれのタスクに望んでいるのと同様で、地域の担い手もこれらを共有したうえでそれぞれの役割を全うしていく必要がある。
もし、こうしたビジョンの設定・共有ができていないと、地域の担い手がそれぞれ向かっている方向がバラバラになってしまい、気がついた時にはお互いが迷子になってしまう。
地域の理想の姿を思い描いて共有する。
そして、それに向けて一歩一歩、歩を進めていく必要があるのだ。
5:ミッションの設定
解決すべき課題、それを克服した時のビジョン(理想像)を設定したあとは、地域おこし協力隊のミッションの設定である。
このミッションの設定が「どうして地域おこし協力隊を導入するのか?」という問いの答えとなる。
地域おこし協力隊のミッションとは、実際に地域おこし協力隊に取り組んでいただく活動のことだ。
地域課題は複雑な要因によって成り立っていることが多く、それら全てを地域おこし協力隊に丸投げすることは、地域課題を解決するばかりか、依存による地域の自治能力低下を招くことになる。
課題の成立要因を細かく分析・細分化して、自分たちで取り組む部分と地域おこし協力隊にお願いする部分を事前に想定する必要がある。
例えば、先ほどの空き家問題の場合、空き家問題と一言で言っても、それを成り立たせている要因は、所有者が不明・所有者との交渉が困難・膨大な改修費用がかかる・改修の担い手不足・家財道具の処分が困難・貸し手と借り手のマッチングができないなど、実に様々だ。
この中から、住民自ら取り組むものと地域おこし協力隊にお願いするもの、お互いが協力して行うもの等をある程度想定し、行政・地域・協力隊の連携体制を整えていく。
こうした連携体制の中で、地域おこし協力隊にやっていただく部分を明確にする作業がミッション設定である。
このミッション設定は、地域と行政、地域おこし協力隊の役割分担を明確にする作業としても非常に意味がある。
地域おこし協力隊のミッションを設定する際、地域住民と行政は、自分たちのスキルや特性を棚卸しし、それらを持ってしても手の届かない領域を地域おこし協力隊にお願いすることになる。
こうしたプロセスを経ることで、地域住民や行政は、自ずと自分たちでやるべきことと地域おこし協力隊にお願いするべき事を仕分けすることができ、それぞれの役割についても自覚できるようになる。
地域課題に対して、行政と地域住民と地域おこし協力隊の3者で、やれることや得意なことはそれぞれ異なる。
それぞれの守備範囲をしっかりと共有し、役割分担を明確にすることは、地域おこし協力隊事業の骨組みを整えていくことに他ならない。
6:地域・行政・協力隊で共有
ここまで、地域課題・ビジョン・ミッションの設定を段階的に行ってきた。
こうして設定されてきたそれぞれの項目は、各関係者にしっかりと共有されて初めて価値を発揮するようになる。
しかし、この“共有”は一筋縄ではいかない。
時間と労力と工夫が必要な非常に難しい作業だ。
そして、この“共有”は自治体職員が主体的になって取り組むべき場面が多い。
このことから、この共有プロセスは自治体職員の腕の見せ所と言い換えても良い。
具体的に“共有”とは、これまで設定してきた各項目を、地域・行政・地域おこし協力隊の共通認識にまで落とし込むことをいう。
せっかくビジョン・ミッション等をしっかりと設定していても、この落とし込みが出来ていないと、各主体の思惑のミスマッチによるトラブルが起き、地域おこし協力隊が機能しなくなってしまう。
こうした事を防ぐためにも、それぞれの主体で“落とし込み”を非常に丁寧に行う必要がある。
地域・行政への“落とし込み”は、これまでビジョン・ミッション等の設定に関わってきたキーパーソン以外の周辺人間に、それらを共有する作業である。
行政であれば最低でも課内の職員+所属部長等には、これまでのプロセスを含めたビジョン・ミッションを共有しておくべきだ。
可能であれば、部内の全ての職員に共有していただきたい。
地域の場合は、キーパーソンの所属する団体・コミュニティの人間はもちろん、地域おこし協力隊のミッションに関連する人間にまで共有しておく必要がある。
例えば、地域おこし協力隊のミッションとして「空き家対策」を設定した場合、地域のコミュニティや自治会のメンバーに周知するのはもちろん、既に空き家対策活動をしている団体や移住対策等を行っている団体メンバーにも共有する必要がある。
特に地域への共有については、地域のキーパーソンだけに頼らず、行政担当者もしっかりと連携して行う必要がある。
地域の関連団体への共有の際には、行政担当者も必ず足を運び、これまでのプロセスを踏まえた地域おこし協力隊のビジョン・ミッションを説明すべきだ。
地域の方にとって、行政担当者が説明に来ると来ないとでは、受ける印象が大きく違う。
地域おこし協力隊に対する信用や期待、自治の意識を高めることに繋がる。
「行政から一方的に降ってきた話」という印象を与えずに済むだろう。
労力を惜しまず、地域の方としっかりと連携して共有作業を進めるべきである。
ビジョン・ミッションの設定段階から関わることの出来る行政・地域に加え、これから受け入れる未来の地域おこし協力隊に対しても共有作業は必要である。
地域おこし協力隊への共有は少し工夫が必要だ。
これまで、地域おこし協力隊への共有は、各自治体のHPや募集要項を通じた発信により行われてきた。
しかし、多くの自治体のそれを見る限り、これだけでは不十分だと感じる。
どの自治体も募集要項上では、具体的なビジョンやミッションに言及せずに、非常にボヤッとしていることが多い。
これは、事前のビジョン・ミッション設定を怠っており、地域おこし協力隊本人にやりたいと思う事、必要だと思うことをやってもらうためというケースが非常に多い。
どんな内容のミッションに転がっても良いように、あえてボヤッとさせておく。
しかし、これでは優秀な地域おこし協力隊は来ない。
来たとしても、その地域でしっかりと機能する確率は低いだろう。
地域にとって優秀な地域おこし協力隊とは、その地域のビジョン・ミッションに共感し、共に歩んでいける人間の事をいう。つまり、事前にそれらをしっかりと明らかにし、未来の地域おこし協力隊に届ける必要があるのだ。
届けること・伝えることをせずに共感は生まれない。
具体的な発信方法については「地域おこし協力隊はJOINで募集してはいけない」でまとめているので省略するが、とにかくここでは、事前にビジョン・ミッションを未来の地おこし協力隊に届けることの必要性を改めて主張したい。
「募集要項等でビジョン・ミッションを明確に示してしまうと、応募する人が減ってしまう」と心配する必要はない。
応募人数が多ければ良いというものでは決してない。
ビジョン・ミッションを知らない100人の応募者よりも、ビジョン・ミッションに共感している1人の応募者の方がはるかに地域にとってはメリットなのだ。
以上、導入目的を明確化し、それを共有するまで6つのプロセスに分けてまとめた。
これらのプロセスは地域おこし協力隊を募集する際、「やった方がよい事」ではなく、「必ずやるべき事」である。
地域にとって、地域おこし協力隊を最大限に機能させるためにも、時間と労力を惜しまず、必ず取り組んでいただきたい。
そして、これらのプロセスを歩んでいくのは、行政職員と地域住民の2者でなければならないということを忘れてはならない。
行政だけ、地域住民だけで進めていくのではなく、必ず2者で合意形成をとりながら一歩一歩進めていく。
性質の異なる2者で意思をまとめていくことは非常に難しいことだが、絶対に妥協せず、お互いの想いを尊重しながら進める。
地域の救世主にもなりうる地域おこし協力隊事業の成否に大きく影響を及ぼすポイントだけに、ぜひともお互いに力を合わせながら取り組んでいただきたい。
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