「NO」の伝えかた
コミュニケーションがほころぶきっかけは些細な行き違いである。
相手に何かを伝える際、言い方1つで相手の受ける印象は異なり、それがきっかけで大きな亀裂に繋がることがある。
地域おこし協力隊と行政担当者とのコミュニケーションのうち、最も行き違いが起きやすいシーンの1つは、行政担当者から地域おこし協力隊に対して、「できない」と伝える時である。
地域おこし協力隊は20代、30代がその中心を占める。
新しい事に興味を持ちやすく、アイディアも豊富だ。
しかし、地域おこし協力隊の活動費は国民の皆さんからの税金によって成り立つ公金。
まして、行政という立場上、偏った利益への貢献はできない。
つまり地域おこし協力隊のアイディアがどれだけ素晴らしくとも、ルール上、公金を支出できないこともある。
このとき、地域おこし協力隊のアイディアに対して、どのように「NO」の意思を伝えるかが非常に重要である。
もちろん、地域おこし協力隊本人も自身が行政職員の一員であること、扱う予算は公金であることをキチンと自覚する必要があるのだが、最初からそれが身に染み付いているわけではない。
その作法は、行政担当者と共に業務を進めていく中で、徐々に身につけていくものだ。
仮に地域おこし協力隊のアイディアが行政の作法から外れているものであった場合、しっかりと「NO」の意思を伝えなければならない。
地域おこし協力隊に「NO」の意思を伝える時のポイントは2つ。
「丁寧に説明すること」と「抜け道を一緒に考えること」だ。
誠実に・丁寧に・相手が納得するまで説明すること
「NO」の意思を伝える際、最悪なケースは頭ごなしに「それはできない」と伝えてしまう場合だ。
これでは地域おこし協力隊との間に信頼関係を築くことができない。
頭ごなしの否定で無いにしても、十分な説明が無いままうやむやに却下してしまうことも同様だ。
「何でも否定される」
「面倒くさがっているだけでは?」
「やりたいことができない」
このように思われてしまうことも少なくない。
地域おこし協力隊に「NO」の意思を伝える時は、「何故NOなのか?」ということを誠実・丁寧に説明する必要がある。
時間が係ったとしても地域おこし協力隊がしっかりと納得するまで説明する。
NOの原因は公金の性質なのか、予算のスケジュールの問題なのか、予算の金額の問題なのか。
原因を明確にし、行政マンの初心者である地域おこし協力隊でもちゃんと理解できるように懇切丁寧に説明する。
行政担当者の一方的な納得ではなく、地域おこし協力隊本人が納得するまでだ。
こうした丁寧な説明を繰り返すうちに地域おこし協力隊も行政の作法を徐々に理解していく。
地域おこし協力隊に「どうせ提案しても無駄だ」と思わせてしまい、彼らの豊富なアイディアを無下にしないためにも、しっかりとした説明をする必要がある。
作文力で抜け道を考える
確かに地域おこし協力隊のアイディアを形にしようとすると、様々な理由からNOと言わざるを得ないことがある。
しかし、それが完全にNOのケースは実は少ない。
一見NOに見えるアイディアでも、少しカスタマイズしてあげれば実現可能、YESになる可能性は充分にある。
行政の壁の前にNOを突きつけられたアイディアでも、少し視野を拡げて抜け道を見つけることができれば壁をすり抜けることができる。
視野を拡げ、抜け道を見つけることが得意なのがあなた方、行政担当者だ。
行政のプロフェッショナルとも言えるあなた方の力に係れば、地域おこし協力隊の前に立ちはだかる壁を無いものにできる。
その力とは、作文力である。
一見、実現不可能なことに見えるアイディアでも、それを上手く調整・整理し、論理立てて作文することで実現可能なアイディアにまで押し上げることができるのだ。
その作文力が如実に発揮されるのは、予算執行の際である。
例えば、ある地域おこし協力隊が地域の特産品であるそばを栽培して販売し、なりわいを作っていきたいと考えていたとする。
この時、先ず必要なのはそばの種。
しかし、その種はすんなり購入することができなかった。
何故なら、当初、地域おこし協力隊が持ってきた企画書は、そばの製造販売を通じて、地域おこし協力隊自らの報酬を生み出すというものだったからだ。
任期中に地域おこし協力隊が自身のなりわいづくりのために知恵を出すのは当然のこと。
しかし、公金という性質上、これを使って自身のみの利益に繋がることはできないと、NOをもらったのである。
この自治体の行政担当者の作文力の見せ場はこの後である。
地域おこし協力隊も行政担当者もここでそばに係る事業を諦めることをせずに、何とか実現するための抜け道を一緒になって探し始めた。
そして、導き出されたのが、そばの栽培・開発と販売を段階的に行うというアイディアだ。
任期中は栽培・開発に専念し、収穫したそばは地域の方に試食と称し配布したり、地域の小学校のそば打ち体験などに活用する。
任期が終了した際は、これまでの経験を活かしたそばの商品化を進め、販売するというものだ。
地域おこし協力隊としての活動はあくまで地域の特産品の開発である。
自身のなりわいづくりではない。
実際には自身のなりわいづくりに限りなく近いことを実行することができるのだが、そのように整理することはしない。
行政のルールにしたがって、地域おこし協力隊のやりたいこと・地域に必要なことを整理・調整する。
そして、それを論理立てて作文することで、実行可能なものに変貌させたのだ。
今の例、実は香川県内で実際に似たような事があった。
このケース以外にも、こうした作文力が発揮されているケースは非常に多い。
ビールサーバーを購入したり、活動時間中に自身の栽培した野菜を販売して報酬を得たりと、一見すると地域おこし協力隊の活動としては不可能そうな取り組みだ。
しかし、その全てでしっかりと理論が組み立てられ、正当な理由の裏付けがなされてたうえで行われているものだ。
そして、その裏には地域おこし協力隊と共に頭を悩ませ、抜け道を探し当てた優秀な行政担当者がいる。
一見NOと見える地域おこし協力隊のアイディアでも、本当に地域にとって必要なことであれば、必ず抜け道は存在する。
行政のプロフェッショナルであられる行政担当者には、しっかりと地域おこし協力隊に寄り添い、そうした抜け道探しに頭を悩ませていただきたい。
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