地域おこし協力隊はどんな努力をしていく必要があるのか。

もちろん、地域おこし協力隊のおかれている環境やミッションによって、その内容は変化するため、全てを一概に言う事はできないのだが、ここではほとんどの地域おこし協力隊に共通する「地域おこし協力隊がまず勉強すべき3つの重要事項」についてまとめたいと思う。

3つの重要事項とは、①行政予算②地域の歴史と文化③ファシリテーションスキルである。

行政職員と同レベルで理解すべき行政予算

行政予算を活用して、様々な活動を進めていく地域おこし協力隊は、行政予算の①性質及び②プロセスについて、行政職員と同レベルで理解する必要がある。

公金の性質とプロセスについては、「行政編4地域おこし協力隊を導入したら、彼らにまず説明すべき3つの重要項目」でまとめたので、細かな説明は省略するが、ここではそれらを地域おこし協力隊本人がしっかりと理解する必要性について言及したいと思う。

長期的な視点に立った活動計画のための基礎知識

地域おこし協力隊の活動費は公金から捻出されるため、一部の利益のために使用する事が難しい。

しかし、そこで使用する予算によってもたらされる利益効果が、地域全体に波及し、それが地域の活力につながるという計画・ビジョンを描けるのであれば、工夫次第でその予算を実現させることができる。

つまり、目先の利益・不利益、平等・不平等で判断するのではなく、長い目で見てどういった効果をもたらすのか?といった長期的な視点での判断が重要なのだ。

これには、地域の現状や行政の役割、地域おこし協力隊のミッション等を総合的に考慮して判断する力が必要で、公金の性質についての理解は、そうした判断力の最も基礎となる知識の1つである。

「儲かる事業ができないなら、何もやれることがない。」

「ボランティアだけしていても、3年後が不安。」

時折、地域おこし協力隊のからこんな言葉を聞く事がある。

果たして本当にそうだろうか。

儲かる事業ができなければ、何もできないのか。

3年後の準備ができないのか。

私は全くそうは思わない。

公金の性質をしっかりと理解して、長期的な視点で事業を組み立てれば、行政予算を活用して3年後の準備は充分可能である。

問題なのは、使いづらい公金の性質ではなく、それに甘んじて考えることを止めてしまうことである。

スケジュールを理解して、ゼロ予算の下地作り期間を有効活用する

行政予算の基本的なスケジュールをしっかりと頭に入れて活動を進めていく必要がある。

ほとんどの自治体の当初予算スケジュールは11月中旬頃から予算計上を開始し、12月に予算課に提出する。

1月に予算課との調整を経て、2月議会に図られることになる。

つまり、地域おこし協力隊が自らが何か事業を企画して、それに予算をつけようと考えた場合、前年の11月頃までに事業の概要と予算概算をまとめておく必要がある。

例え8月採用や9月採用など、年度の途中で採用された場合も同様である。

もちろん、補正予算といって、年度途中に予算を追加・修正することもできるが、ほとんどの場合は、12月議会時に当初予算からの変更・修正を行うもので、当初予算と比較すると、新しい予算を計上するためのハードルはかなり高い。

地域おこし協力隊は、そうした流れを踏まえた活動計画を練っていく必要がある。

ただ、ここで注意が必要なことは「予算が無いので何もできない」と思考停止状態にならないようにすることだ。

地域おこし協力隊には、予算が無くてもできることはたくさんある。

「予算が無いと、自分たちにできる事は本当に無いのか?」

是非、この問いを自身に投げかけて欲しい。

地域の方としっかりと向き合って話を聞き現状を調査すること、自分の事を周知するために手作りの新聞やブログを作ること、地域のみなさんと一緒に意見交換をする機会をつくること、よそ者目線で地域の魅力を発信することなどなど、工夫次第でお金をかけずに取り組めることはたくさんある。

お金をかけずに自分の出来る事から始めて、それを少しずつ発展させ、下地を作っていく。

そうした下地の上に予算をつけた新たな事業を乗せていくことが、理想の予算計上ではないかと感じる。

その意味においても、予算のプロセスを理解し、お金をかけずに自分の出来ることに取り組む期間、現在の取り組み状況と未来の活動を照らし合わせて予算を含む活動計画を練る期間、これまでの取り組みをさらに発展させるための新規事業に取り組む期間とをしっかりと意識していただきたい。

地域と歴史・文化を知ることは、地域を尊重するということ

地域おこし協力隊は「独りよがりでは地域はおこせない」ということを、決して忘れてはならない。

地域住民への尊重や配慮がなければ、地域協力活動はほとんど意味をなさない。

よそ者目線や若者目線が地域おこし協力隊の強みとして語られることが多いが、それらは地域住民を置いてきぼりにするような機能を期待しているわけでは決してない。

斬新なアイディアには思う存分チャレンジしていただきたいが、そこには「地域に寄り添い、地域を尊重しながら」という枕詞が隠れている。

地域を尊重しながら地域協力活動を行っていくために、常日頃から地域の歴史・文化を勉強する事が大切だ。

地域は地域おこし協力隊が着任する前から、脈々と時を重ね、多くの地域住民の手によって、その歴史・文化が形作られてきた。

そうした背景をしっかりと理解したうえで、そこに新しい発想を肉付けしていくことが求められている。

暗黙の了解も地域文化と心得よ

地域の慣習やしきたりも、広義の歴史・文化と捉え、しっかりと理解する必要がある。

地域で何か新しいことをする際、「誰をいつどのように巻き込むか」ということについて、地域の中で暗黙の了解が存在することが多い。

「あの人が協力するなら協力するよ」

地域で活動をする中でよく聞くセリフの1つだ。

地域にはその地域特有の人間関係や風土による慣習があって、それもキチンと理解しながら、正しい方法・順番で活動を進める。

これが地域内で円滑に活動を進めるための鉄則なのだ。

発想は自由に、枠に収めない

ここで誤解しないでいただきたいことは、地域おこし協力隊の発想自体を地域の歴史・文化の枠に収めなくてはならないということではない。

むしろ、地域おこしのアイディアは地域の枠にとらわれず、自由に柔軟に発想することが必要だ。

しかし、アイディアを地域で形にしていくためには、地域の歴史・文化の1つである慣習やしきたりを尊重しながら、アイディアをその地域流にカスタマイズする編集能力が大切なのである。

地域おこしに関する自由な発想は、その地域の歴史・文化を知ることから始まる。

常に勉強の心を忘れずに、それらを自身の血肉にすることができれば、自然とその地域にマッチした発想が生まれ、それを形にするためのプロセスも見えてくるだろう。

独りよがりではなく、地域に寄り添い、地域を尊重しながら。大切な心得の1つだ。

地域住民の意見を聞き取る・まとめるファシリテーションスキル

ファシリテーションスキルも地域おこし協力隊にとって重要なスキルの1つだ。

ファシリテーションとは「人々の活動が容易にできるように支援し、うまくことが運ぶように舵取りすること。

集団による問題解決、アイディア創造、教育、学習など、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働き」(日本ファシリテーション協会:https://www.faj.or.jp/)

様々な言われ方があるが、団体で物事を進める際、目的達成のために円滑に進行を促すスキルだ。

主に会社内の会議やプロジェクトで活用されてきたスキルだが、近年ではより多様な関係者が参画する行政やNPO、地域づくりの現場で活用されている。

単なる司会ではないファシリテーター

ファシリテーションスキルを活用する方のことをファシリテーターという。このファシリテーターについて、単なる「司会」と勘違いしている方が多いが、そうではない。

司会は単に会議の進行を円滑に行うのが職務であるのに対し、ファシリテーターは会議における合意形成プロセスを調整するのが主な職務だ。

いかに多くの方の声を決定に反映させることができたかどうか。

参画している方々の納得感をいかに醸成しながら進めていく事ができるかどうか。

ファシリテーターはこうした観点で物事を捉えている。

「結果はどうであれ、みなさんとこうして議論することに大きな意味があった。」

と、結果よりもプロセスが重要視されることも少なくない。

とりわけ多様な関係者を巻込みながらプロジェクトを進めていくことの多い地域づくりの分野において、物事を決めるプロセスは非常に大切である。

参画する人間が多様であれば多様であるほど、全員の意見をまとめながら決定をすることは難しい。

仮に決定することができたとしても、一部の方が不満を抱いてしまい、プロジェクトから距離を取ってしまうこともある。

地域おこし協力隊こそファシリテーター

立場やミッション、環境に様々な違いはあれど、地域おこし協力隊は誰しもがファシリテーターとしての機能を期待されている。

地域で新しいことに挑戦する際、地域内での合意形成は必要不可欠である。

しかし、地域での合意形成ほど複雑で難しいものはない。

地域には様々な人がおり、地域づくりに参画する人の思惑もそれぞれだ。

また、地域づくりに参画する人間が固定化している場合も多い。

この場合、一見物事がスムーズに決まっているように見えても、声の大きい決まった人間の意見だけが採用されており、声の小さい参画者の意見は無視されてしまっている場合も少なくない。

思惑がバラバラで声の大きさも違う人たちが関わり合う。

ファシリテートするのが難しいことは容易に想像できる。

こうした地域づくりの現場において、外から来た人間がファシリテートした方がスムーズに進行することが多い。

これまでに築かれた地域内での派閥や上下関係等に縛られず、中立的な立場でコーディネートすることができるからだ。

元々地域にいた人間には、これまでの習慣を打ち破って、地域のみんなの意見を汲み取った決定を下すためのプロセスを生み出すことは難しい。

そうした背景から地域おこし協力隊にファシリテーションのスキルが期待されることが多い。

直接的に「ファシリテートしてください」と言われないまでも、自然と地域の寄り合いの司会やまとめ役を頼まれ、自然とファシリテーターの役割を担っていることもある。

また、自らが企画した事業を進めていく際などは、自分自身が中心となって地域の方々を巻込んで意思決定をしていく。

この時も自分の意思だけでなく、地域の方々の意見を引き出し、それを尊重しながらお互いに寄り添ったプランを作っていく際にファシリテーションスキルが必要になる。

このように地域おこし協力隊には、日常的にファシリテーションスキルを求められる場があるのだ。

そして、地域のみなさんと良い関係を築きながら活動を行っていくためにもこのスキルは非常に重要になる。

自分の想いだけで突っ走るような取り組みになってもいけないし、地域の方を尊重し過ぎて取り組みに新鮮味がなくなってしまうのも地域おこし協力隊の本質的な価値を失ってしまう事になるだろう。

地域の想いを尊重しながら、地域おこし協力隊ならではのアイディアをある程度の推進力を持って進めていく。

地域おこし協力隊にとってファシリテーションとは、そのためのスキルといっても良い。

勉強と実践の繰り返しで身につけるファシリテーション

ファシリテーションスキルは実践によってのみ身に付くことができると筆者は考えている。

最近、本屋にはたくさんファシリテーションの参考書等が並んでいる。

確かにこうした参考書を読む事で「ファシリテーションとは何か?」ということは理解することができるだろう。

しかし、「理解する」と「できる」は別の問題だ。

特にファシリテーションの場合、理解しているだけでは何の意味もない。それを実践することができて初めて価値が生まれる。

そして、ファシリテーションをうまく実践するためには、実践によって経験を積む以外に方法はない。

最初は自信がなかったとしても勇気をもってとにかく実践することがファシリテーション上達の近道である。

どんなに小さいな寄り合いであっても積極的にファシリテーター役をかってでる。

その度に「地域の方の意見をうまく汲み取ることができたか」「みなが納得感を持って決定を受け入れられているか」等の視点から自分自身の振る舞いを見つめ直していただきたい。

そうした少しずつ経験を積み上げていくことで、ファシリテーションスキルが向上し、地域と良好な関係性を保ちながら新しいことにチャレンジできるようになるだろう。